そとの猫がうちの猫になった日

前回書いたように、公園から猫を拉致したのはほとんど衝動的な行動だったので、家に連れて帰った後も、「絶対このままうちで飼う」「生涯面倒を見る」という確信は、正直言ってなかった。

うちはペット飼育可のマンションだし、私は1人暮らしだが、会社勤めではなく在宅で仕事をしており外出は少ない。仔猫を飼う環境として、まあ問題はないだろう。

だが、猫に限らずペットを飼ったことがないので、それがどんな生活なのか想像できなかった。また、そのためもあって、ペットとして飼われている家猫の方が、野良よりも幸せだという考え方に対して、疑問があった。特に完全室内飼いにした場合(うちは4階なので、否応なくそうせざるを得ない)、行動範囲や触れ合える環境が大きく制限されることが、猫にとってはかなり不幸な状況なのではないかと思っていた。(いまではその考えはだいぶ変わったが、少しだけそう思うところも残っている)。

だから、もし自分自身が猫との生活になじめない、あるいは、猫がうちを嫌がって激しく外に出たがるようなら、連れてきた場所に戻してあげようと思っていた。たまたま、小旅行のように、うちに立ち寄ってもらったようなものだと考えればいい、と。(いまなら、うちで飼えないなら里親を探すことを考えるかもしれない。当時は里親というものをよく知らなかった)。

拉致した翌日、近所の動物病院で診てもらったところ、健康ではあるけど、ノミやその卵、糞、ノミが吸った血などがたくさんついてけっこうひどい状態であることがわかった(はじめてなでたとき、背中がザラザラしていたのはそのためだった)。ちなみに、性別はメスで、月齢は4~5か月くらいだということ。

ノミ取り薬の投与やワクチン注射をしてもらい、家に戻ってからひたすら体を拭いたり(シャワーで洗うやりかたがわからなかった)ノミを取ったりして世話をしているうちに、単純だが、また外に戻すのはかわいそうだと思えてきた。

では、猫自身はどうかと言えば、差し出されたエサを当たり前のように食べ、とくに教えてもいないのに段ボールハウスに置かれたトイレで用をたし、気が向くと喉をゴロゴロ鳴らしたりしている。「素晴らしい飼い主に恵まれて嬉しい」と喜んでいる様子はないが、さりとて、拉致監禁されたわが身の運命をはかなんだり、こんな狭い家は御免被ると脱出を企てたりする気配もない。それならば、好きなだけいるといい。

こうして、うちの子になってもらうことにした。

唯一、気がかりだったのは、兄弟(?)の黒ブチだ。翌日からほぼ毎日、同じ公園に通って、探して歩いた。もし見つかれば、その子もうちに連れてこようと思っていたが、1か月以上通い続けて、結局見つからなかった。会ったのは一度きりで、写真も撮っていないから外見の記憶ももうあいまいになってしまった。どこかで幸せに暮らしてくれているといいのだが。

ノミが多かったため、しばらくは風呂場で過ごしてもらった。こんな姿を見せられると、もう外には出せなくなってしまう。